日本ニュース 第198号
1944年(昭和19年)03月15日
[1]築け防空都市 09:01
近代戦は科学の戦いでもある。聴音機や眼鏡に頼っていた敵機の警戒にも、発達した電波の警戒機が用いられる。最も精密な電波探知機は、敵機の数や高さ、速さを、雲や霧を通しても正確につかまえる。海辺や山の上に備え付けられた警戒機は、絶えず電波を出して監視哨(かんししょう)の役目を果たす。この電波に敵機が触れれば、電波は直ちに反射して、敵機来襲を電波探知機に伝える。探知機が間髪を入れず敵機をとらえ、自動的に高射砲が操縦されて、弾丸が発射される。今、山の上の警戒機が敵機来襲を発見した。探知機は直ちに活動を始める。このように、重要都市の防空は、一層完ぺきを期せられている。しかし、この網の目をくぐって来襲する敵を覚悟せよ。敵はマーシャルを汚し、マリアナ群島にやってきた。空襲に待ったはない。この空襲に弱点をさらす我が国の都市。敵の不遜(ふそん)なる企図にどうして対抗するか。いわく、疎開。疎開は敵の来襲に備える、銃后の戦闘である。
上田防空総本部総務局長
<総務局長:
疎開の目的はふたつあります。そのひとつは、重要都市の防衛体制を強化することであります。すなわち、できるだけ建物を除却して、いわゆる防空都市を作りあげるとともに、一方とどまる必要のない人々や、足手まといとなる老人や子どもたちを地方に出てもらい、后に踏みとどまる必要があらば、あくまでも后に踏みとどまって、断じて都市を守り抜くところの決戦的陣容を整えようとするにあるのであります。>
町中にある工場を、空爆による火災から守るため、工場の周囲の民家を取り払わねばならない。重要工場付近の家に、疎開の命令が下される。そしてできた空き地に、貯水池を造る。防火樹木を植えて工場の災害を防ぐ。
都会の中心地は家が建て込んでいて、十分な通路や空き地もない。いざという時、消防や避難で全く混乱する。ここにも疎開を行って、広い道路や空き地を造り、混乱や延焼を未然に防がなければならない。また燃えやすい木造家屋の連なっているところには、1キロないし2キロの間隔で防火帯を設け、これが徹底的に行われて初めて強力な防空都市ができあがるのである。
<総務局長:
第2の目的は、疎開によって人的にも物的にも、いわゆる戦闘配置を整えて、国家戦力の増強に寄与せしめることを狙っておるのであります。すなわち、地方に疎開したる者は、そのことごとくがそれぞれ分相応に働いて、一億総進軍の実を挙げるとともに、除却いたしましたる物資や機材は、これを最も必要なる戦力増強の正面に転用、または活用せんとするのであります。以上の2つの目的に沿わないところのものは、国家の要望する都会ではありません。いわゆる、有閑的都会、逃避的都会はこれ排撃すべきであります。疎開は敵前展開であります。急速に断行せられなければなりません。もちろん、幾多の困難を伴います。官民一致の努力をもって、突破、克服しなければなりません。これがため、役所側におきましては、できるかぎりの用意の下に、迅速果敢なる進行を図るべきであります。>
鉄道当局では、疎開の輸送を一手に引き受けて、決戦輸送におおわらわな人手や車両を割いて、迅速な疎開輸送に完ぺきを期している。
誠に、手遅れになった疎開は無意味なものである。疎開は今、一刻一秒を争うほど急がれている。この急場に当たって、労力や資材が不足していることも国運を懸けた戦時下、当然のことである。しかしこのような疎開の隘路(あいろ)を、疎開する人や周りの人々の工夫と協力によって、力強く押し広げていきましょう。荷造りや駅までの運搬には隣組や女子青年団、勤労報国隊が力を分け合い、荷造り資材も手分けして探したり、工夫したりして、敵を前に控えた重要工作の目的を1日も早く達成しよう。実際、疎開は銃后国民の一致協力して行わなければならない、戦闘行動であります。
工場に近く、疎開命令を受けた王子の町会長は、町内の人々に呼び掛けました。
<町会長:
戦争下、物資のない、労力が足らないと言って愚痴をこぼすその間に、自分たちの工夫、自分たちの努力によって、この疎開を1日も早く完成させなければならないのでございます。>
また、都市に仕事を持たぬ人も、進んで出身地へ帰り、戦力増強の一役を担いましょう。
<一般市民:
私は今、東京にいなければならぬ仕事を持ちません。しかし郷里に帰れば、いろいろお役に立つことがありますので、上司のお示しに従い、進んで帰郷することに致したのであります。>
<総務局長:
疎開する人々は、いやしくも良心に恥じざる疎開を行う以上は、国策遂行の盛んなる意気をもって、勇躍、疎開すべきであります。これを送り出す者も、従ってまたこれに物心両面の心からなる援助をいたすべきであり、これを受け入れる側においても、また心からなる転移祝いをもって歓迎の手を差し伸べていただきたいのであります。かくて初めて、日本的なる疎開が円満に遂行せらるるのであります。>
空襲は必至だ。しかし備えあればなんら恐れることはない。完備された防空都市。強力な都市防衛の皇軍は、日夜分かたず敵機必墜の気迫も鋭く、激しい訓練を積んでいる。
